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草の新緑と森の木々が織りなす緑のグラデーションの中を、放牧された牛たちがゆったりと歩む。遠くの山々にはほんのりと霞がかかり、見上げる空は限りなく青く深い。まるでアルプス山脈の国に迷い込んだ錯覚にとらわれる。 「澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んで、森の美しさや雲の近さ、空の深さを感じ取って欲しい。この場所は特別な空間なんです。ここで暮らせば心が豊かになることは間違いない」 父の代から、この地で酪農を営む渡辺則夫さん(75)が赤銅色の笑顔で微笑む。 渡辺さんがここで牧場を始めたのは今から40年ほど前、三十代の時だ。標高約800mに広がる荒地を、父の成甲(しげる)さんと一緒に開拓して、広さ約7ヘクタール(ha)の牧場に造りあげた。スタートは国の補助事業を導入したが、その後は自ら木を切り倒し、切り株を掘り起こし、道をつけるなど手塩にかけて造り上げた。 「スイスのような光景をここに創りたかったんです」と照れながら話す。この丹精込めた手造り牧場が、今回の事業承継案件だ。
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